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特集 定点観察


Stencil

ステンシル 【stencil】
→合羽(カッパ)版
型紙の絵の部分を切り抜いて穴をあけ、穴の上からはけで絵の具を塗り付けるもの。合羽刷り。 (広辞苑 第5版より)




模様の形を切り抜いた型紙をあて、その上から塗料を吹きつけ模様をつけてゆくステンシルの技法を使ったシリーズ。
丸や四角といった単純な形をいくつも並べて、楽しい模様を作り出しています。
そのほとんどが単色の同じ柄を繰り返す素朴な装飾ですが、 中には色々なパターンと色を幾重にも重ねて複雑な模様を描いているものもあります。
ステンシルの技法で装飾されたシリーズの種類は非常に多く、プリントのパターンもカップの形も様々なタイプが作られていました。
今回は、同じ型のカップ&ソーサーで絵柄の異なるものを見比べてみましょう。




まずは、一番の特徴である、絵柄を見比べてみます。


描かれているパターンはステンシルという技法らしく、1つひとつは大ぶりで単純な形です。
パターンの色は穏やかな発色で、真っ白すぎないカップの地の色とよく合っており、パターンの柄にふさわしい色が選んであります。
パターンのプリントをよくみてゆくと、端の境界線がぼやけていたり、白地に微細な色の飛びがみられます。
このシリーズが作られていた数十年前のARABIAの工場で、このカップに型紙を当て、絵の具を吹きつけている様子が目に浮かぶようです。
(パターンの画像をクリックしていただくと、大きな画像でご覧いただけます。)



次にカップ&ソーサーとしての姿を比べてみます。
こうして並べてみると、色彩、濃淡、パターンによってイメージが変わっているのがよくわかります。
このシリーズのソーサーは、カップのパターンの色にそった単色の柄のない装飾ですが、それがカップのステンシルパターンをより引き立てています。
青、緑、黄色の水の水面からカップが浮き上がって来たようにみえませんか?
カップの中程がすぼんだ臼のような形と、ソーサーの縁の立ち上がりのバランスがなせる技だとおもいますが、真っ白のカップ&ソーサーではこのようには見えてこないはず。
ステンシルというごくごくありふれた装飾の技法が、テーブルウェアにとってのデコレーションの力を何より分かりやすく見せてくれます。





ソーサーのはなし


今回観察しているタイプのC/Sに採用されているソーサーは、ARABIA社のその他のモデルでも採用され、たびたび目にするデザインです。
薄い作りですが、角がなく破損が起きにくい形状をしています。
中心部からバランスよく緩やかにカーブを描いて立ち上がるラインが素晴らしく、少し持ち上がった中心部にカップが乗ると、主役であるカップが舞台に登場したかのように、一層際立って美しく見えます。
裏面を見ると、ソーサーとは思えない綺麗なカーブをしています。
形だけをみると、どちらが表でどちらが裏なのか決めるのをためらってしまいます。
接地面はなめらかですので、誤ってテーブルを痛めることがなく安心です。
とにかく、このソーサーの脇役に徹した細やかな仕事ぶりに心うたれます。
ソーサーに、ここまで機能美を感じる経験はなかなかできないと思います。

表面にだけ施された彩色に刷毛目はなく、ムラなく綺麗に仕上げられています。
中心を白抜きにして、カップの絵柄と同じように柔らかな色調の釉薬がかけられていまが、裏面を見るとそれぞれの色に僅かに染まっています。
しかも、少し色むらがあったりします。
バックスタンプも中心にあった試しがない。
ですが・・・、この愛嬌たっぷりの大まじめさと大らかさのブレンド具合が、ビンテージARABIAの魅力なんですよね。

 






カップについて


主役となるカップを近づいて見てみると、面白いものが色々と見えてきます。
コーヒーカップとしては、比較的小降りでクラシカルなスタイルのカップですが、高台がすくっと立ち上がり、内側にぐっと引きがちに広がるラインは、より引き締まった印象をもたせて、ステンシルのパターンが綺麗に見えるように工夫されたものだと思います。
まっすぐな円筒形のカップでは、ステンシルのパターンも違ったものに見えるはずです。
ソーサーとの組み合わせについても、このカップの形だからこそ、ソーサーのよさを十分に引き出せているのではないでしょうか。



このシリーズのカップの持ち手は、リング上のものがカップの側面のラインに沿うようについています。
そして、その断面はリング全体が内側に向かってすぼまるような三角形となっています。
持ち手を両サイドからつまむように持ったときに、力が持ち手の中心に自然に向かい安定します。
また、持ち手に指を通してカップを持ってみると、この形状が指に気持ちよくフィットしてストレスを感じさせません。
持ち手のパーツだけを見てみると、胴体との接地面が広く、指の当たらない部分にも厚みがもたせてあるため、この小振りなカップのサイズには不釣り合いに大きいものに思われます。
しかし、実際にカップについている持ち手は、胴体の存在に頼らずそれ自体が独立した形をしている為か、控えめな印象を受けます。
それはまるで、ステンシルのパターンを邪魔しないように、自ら一歩引いているかのようです。
ここでもまた、けして欠かすことのできない名脇役の絶妙な仕事が光ります。






今回観察したモデル以外にも、ステンシルの技法でデコレーションされたシリーズが沢山作られました。
どのカップを見ても、ステンシルのもつ懐かしい優しさにあふれた魅力あるものばかりです。
今度どこかで、ぼんやり滲んだ絵柄のカップをみつけたら、型紙に絵の具を吹きつけている姿を想像してみてください。そのカップが人の手の温もりを感じられる愛おしいものに思えてくるかもしれません。

 

今回観察したステンシルのカップ&ソーサーの詳細はARABIAのページでご覧いただけます。